第1章

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滑りだした車内。私はボンヤリと窓の外を眺めていた。 「みひろ、こんな時間だから……飯は食ったよな?」 前を見たまま、兄が声をかけてきて 「……うん」 「そっか、でも、俺、まだなんだよ、寄り道していい?」 ギョッとして、兄を見やる。何、言ってんの? 「家にご飯あるんじゃないの?」 母は今日、夜勤だからもう家にはいないだろうけど……きっといつも通り用意してくれてるはずだ…… 私は……つい、流れに乗って、さっき食べてしまったけれど……兄はこれからなんだから、家で食べればいいのに……そう思った。 「まぁ、たぶんある、だろうけど……、お前は食べないんだろ?」 「……食べたって、言ってるじゃん!」 何、この意味のない会話……凹む気持ちから一転、だんだんイライラしてきた。 「だな、でも俺はまだ食べてないんだよ」 「だから、何?」 それさっきも聞いたんだけど、 「お前が食べないと、俺一人で食べるはめになるじゃん」 「はっ?」 「一人飯はうまくないだろ?」 「意味わかんない」 「家帰ったら、お前速攻で、部屋に閉じこもりそうだから」 「………」 「このまま、飯を食いに行く」 「私、帰りたいんだけど」 勝手な事を言う兄に苛立つ――、って、迎えに来させといて勝手な事を言ってるのは私の方か……わかってはいても、引くに引けない。 「先に送ってよ!」 八つ当たり気味に兄に叫ぶ。 「ダメ」 へラッと笑う兄。全然、しれ~っとしている。何、この温度差…… 「なんでよ? いい大人なんだから、ご飯くらい一人で食べて」 「だって、お前ひとりで泣くだろ?」 ギュッと胸をつかまれたみたいに痛かった。 「泣かないもん」 目を逸らしそっぽを向く。 「今にも泣きそうな顔、してるけど?」 「……してないもん」 かろうじて返した返事は、自分でもわかるほどに弱々しかった……
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