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滑りだした車内。私はボンヤリと窓の外を眺めていた。
「みひろ、こんな時間だから……飯は食ったよな?」
前を見たまま、兄が声をかけてきて
「……うん」
「そっか、でも、俺、まだなんだよ、寄り道していい?」
ギョッとして、兄を見やる。何、言ってんの?
「家にご飯あるんじゃないの?」
母は今日、夜勤だからもう家にはいないだろうけど……きっといつも通り用意してくれてるはずだ……
私は……つい、流れに乗って、さっき食べてしまったけれど……兄はこれからなんだから、家で食べればいいのに……そう思った。
「まぁ、たぶんある、だろうけど……、お前は食べないんだろ?」
「……食べたって、言ってるじゃん!」
何、この意味のない会話……凹む気持ちから一転、だんだんイライラしてきた。
「だな、でも俺はまだ食べてないんだよ」
「だから、何?」
それさっきも聞いたんだけど、
「お前が食べないと、俺一人で食べるはめになるじゃん」
「はっ?」
「一人飯はうまくないだろ?」
「意味わかんない」
「家帰ったら、お前速攻で、部屋に閉じこもりそうだから」
「………」
「このまま、飯を食いに行く」
「私、帰りたいんだけど」
勝手な事を言う兄に苛立つ――、って、迎えに来させといて勝手な事を言ってるのは私の方か……わかってはいても、引くに引けない。
「先に送ってよ!」
八つ当たり気味に兄に叫ぶ。
「ダメ」
へラッと笑う兄。全然、しれ~っとしている。何、この温度差……
「なんでよ? いい大人なんだから、ご飯くらい一人で食べて」
「だって、お前ひとりで泣くだろ?」
ギュッと胸をつかまれたみたいに痛かった。
「泣かないもん」
目を逸らしそっぽを向く。
「今にも泣きそうな顔、してるけど?」
「……してないもん」
かろうじて返した返事は、自分でもわかるほどに弱々しかった……
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