ハッピーエンド契約

①

リビングに着くと、彼が珈琲を淹れてくれたので、受け取りソファーに腰を下ろす。

一口飲めば、何となく気分が落ち着いた。

「落ち着いた？」

「あ、はい…あの、昨日の夜というか…結婚の事を…」

色々聞きたいけど、うまく言葉に出来ない。
というのも、何処かで後ろめたい事をしたと思っているからで。

だって、こういうのワンナイトラブって言うって…！

本当に結婚していたなら、ワンナイトラブではないが。
だけど、結婚なんて有り得ない。

たまたま道案内した男と、結婚なんて。
いくら、私が恋愛経験ゼロのオタク女だったとしても、それはないと断言できる！

彼が二枚の紙を私の前に差し出すまでは。

「何ですか…これ」

「こっちが契約書で、こっちが婚姻届のコピーだよ」

「契約書！？コピー！？」

一つ一つに驚きながらも、まずは婚姻届のコピーを見てみると、しっかりと私の字で書かれていた。

一ノ瀬、夏樹。
婚姻届に書かれたその名前に、私はどこか聞き覚えがあった。

だけど、よく思い出せない。
確かにどこかで聞いた事ある名前なんだけどな…。

婚姻届を見て、初めて彼の名前を知るというのは、何だか居た堪れない気持ちになる。

というか、私…本当にこの人と結婚してるんだ…。

半信半疑というか、殆ど信じていなかったが、こうして物的証拠を見せられると信じるしかない。

うわぁ…何だか吐きそう。