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思わず口から零れた名前に、美花自身が驚く。 けれども、甘過ぎない、造形の整ったこの顔に神経質そうな銀色のフレームを乗せれば、この男は美花の知っている人に驚く程よく似ていた。 そんな美花を見ながら、男が嬉しそうにニッコリと笑う。 「ピンポン、正解! 僕は 橘 浩輔 の兄で 浩峨 といいます 」 「……兄 」 橘 浩輔は、今の自分をこんなふうにした張本人の秘書で、実質上、仕事での片腕と呼ばれる人物だった。 だけど、その橘の兄が何故? それに……。 「どうして、私が分かったの? 私は橘さんには何度も会ったことがあるけれど、貴方にはないわ 」 「僕ね、あの時、現場に居たんだよ 」 険のある言い方で聞けば、浩峨にあっさりと種を明かされ、美花はぐっと息を飲んだ。 そして次には、ナイフを握る感触が蘇ってきて、右手がぶるぶると震えだす。 人間の……、好きな人の体に食い込む刃物の感触。 美花は気付かれないように、その手を上から左手でギュッと押さえた。
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