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『聞いたよ。美花の家、破産したんだってな。』
ずっと、自分を好きだと言っていた男の嘲るような目付き。
『今更用なんかない。お前は〈七々瀬〉の社長の娘だったから、価値があったんだ。 そうでなきゃ、お前みたいな高飛車で可愛げのない女、誰が相手にするか 』
何よ! アンタみたいなヤツ、こっちだって願い下げだわっ!
別に好きな訳では無かった。
家柄が釣り合うからと、斎賀が現れるまで親から勧められていただけの相手だった。だけど……。
好きだよ、美花ちゃん ーーー
自分だってそうだったのに、どうしてあの男の言葉を信じたのだろう。
全部無くなって、心が崩れて、何かに縋りたかったのかも知れない。
唯一人、好きになった人にも、目の前で分家の娘などいらないと鼻で笑われたくせに。
あの時着ていた紅色の牡丹の大振袖。気に入っていたけれど、もう二度と着ることはない。
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