0人が本棚に入れています
本棚に追加
変わろうと思った。赤いマフラーをまいたあの人がいなくなって、失意のどん底に落ちた彼らをまとめるには自分が変わるしかないと、キドは一人、決意した。
「俺が団長になって、みんなを引っ張っていく」
子供の遊びだったのかもしれない、他人とは違う異質な力を瞳に宿した自分達が不安にならないようにしたかっただけで、いつか終わってしまう団員ごっこかもしれなかったけれど、今はそれが必要だった。なんて、いいわけをしてみるだけで、キドがそうしたかっただけだ。寂しかったと言えば、きっとカノに茶化されるだろうから言わないけど、構わない。寂しいからみんなでいたいと願って何が悪いと思っていたのに、
「あー、これは風邪だねぇー」
と、狐目が特徴的な青年、カノは体温計を見つめながら言った。それくらいわかるとキドは答えたかったが、身体が重く苦しいため答えられない。いつものパーカーを強引に脱がされ、パジャマに着替えベッドに寝かされている自分はとても滑稽だ。団長として情けない。
「…………」
「なーにむくれてんのさ、誰だって風邪くらい引くでしょ」
ケラケラと笑いながら、額をつついてくる。
「そうじゃない、わ、俺は団長を引き継いだんだ…………ゲホッ、ゲホッっ!」
「あーはいはい。いま、セトがひとっ走り薬、買いに行ってるからおとなしく寝てること、わかった? つぼみ」
「…………」
いつもはキドなのに、こうやって二人っきりになったとたんにつぼみと呼ぶ、カノにぷいっと布団を頭までかぶる。少しだけ頬が熱いのは気のせいだ。
「あとさ、無理して自分のこと、俺って呼ばなくていいんじゃない? あきらかに無理してるでしょ」
「無理してない、俺は、俺だ」
団長になったのだから、
「俺達と同じ能力を持つ奴が、これから現れるかもしれないだろ。そうなったとに団長がナヨナヨしてたら不安にさせてしまう」
キドは自分のことを、俺と呼ぶようにした。変わるためための小さい変化だ。自分達にとって姉のような存在だった、あの人が赤いマフラーをまいたように、自分も変わりたかった。もともと中性的な容姿だ。私よりも、俺のほうが似合う。
「もういいだろ。風邪をうつしたくないんだ。薬ならセトに届けさせればいいだろ」
早く出ていけと、カノに言うが、彼はベッドのふちに座ったまま出て行こうとしない。どころか、頭まで被っていた布団を剥ぎ取って、見下ろしてくる。
最初のコメントを投稿しよう!