不器用な人

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「誤解されてますね。」 「ん?」 沙織は握っていた手をひらき、指を絡めてきた。 「私に誰かの代わりなんて出来ません。」 「え??」 「好きな人に触れるのに、理由がいりますか?」 「は????」 静かな映画館に、響く自分の声。 冷ややかな視線にすみませんと、軽く頭を下げた。 「鈍いんですね。」 「いや、だって。」 ごにょごにょと小声で会話。 「あれ以来、可愛いと言ってくれませんね。やっぱり嘘だったんですか?」 「嘘じゃないけど、、、。」 「頭も撫でてくれません。明里にはするのに。」 やられた。 まさか、沙織がここまで思っていたとは。 もうすっかり映画を見る気も失せ、深々と倚子に座り込んだ。 恋人繋ぎされた手を見つめる。 「文哉と明里、この事知ってるな?」 「はい。」 やっぱりか。文哉のやつ。 黙ってられた事が悔しかったが、今はこの状況をどうするかだった。 この手を離したくないかと言われたら、イエスで。 沙織の顔をみれば、余計に胸は苦しくて。 「私、女だからね?」 「知ってます。」 「ならいい。分かってるなら、いいよ。」 降参だった。 「ちゃんと告白してください。」 相変わらずのストレートな言葉にもなれた。 この子なら、黙って去っていくことはしないだろう。 「キスしてくれたらね。」 「いいですよ。」 「ストップ。わかった。降参。好きです、付き合ってください。」 「いいですよ。」 込み上げてくる笑いを堪えながら、肩を寄せあった。
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