ありがとう

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「そっか。」 久しぶりに見たあなたは、少し悲しげに微笑みながら背中を向けた。 これでいい。 優しいあなたは、私に手をさしのべるかもしれないから。 出所して、初めてみた人があなたで良かった。 初めて私に心の拠り所をくれた人。 逃げてと言われたとき、あなたと逃げたいと言いたかった。 「あの女、レズビアンバーにいたな。最近男は金を出し渋るし、お前あいつから巻き上げてこいよ。」 きっかけはそんな成り行きだった。 初めて同性を口説いたが、知れば知るほど好きになった。 あの時のチョコレートは、本当に本命だった。 初めてあなたに抱かれた夜、あの男にも抱かれて初めて絶望を味わった。 姿が見えなくなるのを確認してから、しゃがみこんで泣いた。 雨が涙を声を隠してくれる。 「好き・・好きだったの!」 あの男に騙されて脅迫されてなければ。 いや、親に反抗して家出なんかしなければ。 普通に恋愛出来ていただろうか。 こんな汚れた体にならなかっただろうか。 後悔してもしきれぬ感情に、涙が止まらなかった。 「風邪ひくよ?」 いつの間にか雨がかからないようになっていた。 「なんで・・なんで戻ってくるのよーー。」 「百華が呼んだくせに。」 荷物を持ち、私を立ち上がらせると小さい方の傘をたたんだ。 「雨の降る日に、泣いてるあなたに一目惚れした。こんな始まりじゃ駄目かな?」 「・・・いいの?私で・・。」 「一目惚れだからね。百華は?どんな設定にする?」 「雨の日に王子様が迎えに来てくれた・・。」 「はは!王子様かぁ!いいね!」 あの無邪気な笑顔が眩しかった。 「お手をいいですか?お姫様。」 汚れた手にも関わらず、しっかりと握られた手に、また涙がこみあげた。 しかしその涙はもう冷たくなくて。 握られた手から思いが流れ込んでくるようだった。 「・・・好き・・・。」 聞こえないように小さく呟いたが、返事をするように優しく微笑まれ、きゅっと手に力が込められた。 この人は、何度私を泣かせるつもりなのだろう。
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