第3章  ヒーロー

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 帰宅途中の深夜、東吾はコンビニに寄った。  日系人が多いアナトレータウンに近いこのコンビニは、バレンタインディー向けのお菓子が沢山ディスプレーされている。 「こんばんは」  ルシアンがカウンターの向こうから、声を掛けてきた。清々しい笑顔は、雑多な商品のカオスからふわりと浮いて輝く。 「コーヒー、ですね?」 「お願いします」  東吾は代金を先に渡した。 ルシアンは、畏まりました、と笑顔いっぱいに答えて、すぐに準備を始める。  やはり、誰かが自分の為にコーヒーを淹れてくれるっていいなぁと、東吾は天使の柔らかそうな金髪を後ろから眺めて思う。 「どうぞ」 「……?」  コーヒーの横に小さな包みが添えられている。あれ?と東吾がルシアンに視線を移す。その意を汲んで、ルシアンは東吾の方に少し身を乗り出して、こそっと言った。輝く笑顔が近くて、東吾は目がクラクラしそうだ。 「お疲れみたいですから。この間のお礼です」 「悪いね、じゃ、遠慮なく」  後ろに他の客が並んだので、本来は遠慮する東吾だがそのまま受けた。もう少し会話を交わしたかったけれど、他の客の迷惑になるわけにはいかない。何より天使から「何か」を与えられて心臓がバクバクとうるさい。逆に会話どころではなかったのだ。遠い対岸に漸く泳ぎついたような疲労感をまといながら運転席に乗り込んだ。落ち着こうとコーヒーを一口飲んだ。フゥ、と深呼吸してから改めて「それ」を見る。 「えっ!?」  チョコレートだった。 東吾でも知っている有名ショコラティエの高級チョコレート。明らかにコンビニの商品ではない。  東吾は、躊躇った。ただでさえ暗い車内だし、オロオロと視線が泳いで頭の中も混乱している。  だって、そんなわけ……。    ない、ない! コーヒーにチョコはいい相棒だ、勘ぐるな、みっともない。  第一、男だ、お互いに。    馬鹿馬鹿しい思いつきを頭から追いやって、贅沢な造りの箱を開けた。オレンジピールにチョコレートがコーティングされている。  一本手に取って、視線を店内に向けた。 働いているルシアンの頭が陳列棚の向こう、見え隠れしている。金髪が、ふわふわ揺れているのを眺めながら、口に含んだ。  
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