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祥子の親友だった越智は美羽を可愛がってくれているし、美羽もカッコイイお姉ちゃんと慕っている。小学校に上がる前は「将来は葵ちゃんのお嫁さんになる」と言っていたほどだ。
「あ……、ああ。そのうち、な」
「もーっ、やっぱり、忘れたの!?」
「忘れたんじゃ無いよ、お父さんが美羽の言った事を忘れた事、あるかい?」
まぁ、時々ね、と、膨れっ面の美羽の代わりに絵美理が口を挟んだ。
「でもね、美羽。葵さんは忙しいんだよ。お父さんより、朝は早くから夜は遅くまでお仕事なんだって」
美羽は、しゅんとして、箸を持ったまま口を尖らせた。泣き出しそうな娘の赤い鼻が、スンと言い出すと東吾は慌てた。
「で、でも、越智は喜んでいたぞ、必ず、時間作るって言ってたから」
「ほんとう!?」
「ああ、本当」
「じゃあ、待ってるね。美羽ね、クリスマスプレゼントに葵ちゃんから貰ったワンピースを着ていくの」
「水玉のアレか、美羽に似合うだろうな。お父さんがあげた帽子も被ったら、もっと、可愛いぞぉ」
「あれ、冬用だから、ダメ!」
食卓に笑いが溢れる。
美羽がいる、それだけでこんなに幸せじゃないか。おかしな夢なんて忘れるんだと、東吾は自分に言い聞かせた。
山間の道から、パンセレーノスへと繋がる主要道路に入る手前、車を走らせながら東吾は考えていた。
目覚めが悪いのは、プロ選手だった頃の夢を見たからだ。
しばらく、新しい環境に順応していくのが精一杯の生活だったから、そういった夢を見る暇がなかったのだが。
俺はプレイヤーに戻りたいのか?
そして、また、過ちを繰り返すのか?
祥子を犠牲にしたように、今度は美羽を……。
ダメだ!! 美羽だけは、守らなくては!!
そうだろう、祥子。
お前は俺にフットボールを続けてくれと言ったが、それでは美羽を守れないんだ。俺は間違ってないと言ってくれ、祥子!
感情を抑えきれなくなって、東吾は路肩に車を寄せて停車した。
ハンドルに突っ伏して目を瞑っても、目の奥が熱い。自分を叱責しても、未練は消えない。
「だらしねーぞ、東吾!」
その時、耳元のドアウィンドーをコンコンと叩く音があった。東吾は、はっとして顔を上げた。
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