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そこにはバイクに乗った男がいた。
フルフェイスのメットの奥の瞳の色!!
ルシアン!?
東吾はすぐさま、ドアウィンドーを下げた。
すると、ヘルメットのシールドを跳ね上げて、ルシアンが心配そうに尋ねた。
「大丈夫ですか?」
「あ、いや。 ちょっと考え事して……」
どうして、ここに?
「そうですか、体調がすぐれないのかと」
ほっとして表情が明るくなったルシアンの笑顔が、朝日の中で眩しかった。
心配してくれたのか、俺を?
「君は……、ああ、バイトの帰りか?」
「ええ、家はパンセレーノスなんです」
「俺も会社が、あるんだ」
「時々、一緒に走ってるんですよ、僕たち」
気付いて無かったんですか、とルシアンが小首を傾げて訊いた。
「え、……ああ、そうか……なるほど」
東吾がしどろもどろに返すと、ルシアンからクスッと笑みがこぼれた。そして、念を押して訊いてくる。
「本当に大丈夫なんですね?」
「ああ、ごめんよ。もう、行くよ」
「じゃあ、お先に」
ルシアンはシールドをゆっくり下ろし、挨拶代わりに右手を上げてから、車道に戻った。その仕草のスマートさは、スクリーンの中の出来事みたいだ。
バイクは一直線に消えて行った。
排気量の割りに爆音をさせない高性能なバイクだ。コンビニのバイト位じゃ、追い付かない金額だろう。バイトは社会見学という感覚かもしれない。
きっと、持って生まれた星周りが違うんだよな、俺なんかと……。
「かっこいいね、ハンサム君は」
自虐がちに呟いた。その時、チョコレートのお礼を言い忘れた事に気がついた。
あ、いや……、でも、それはどうかな?
意識していると思われたりしたら、気恥ずかしい。でも、お礼を言わない方が意識していると思われはしないだろうか?
あ~、待て待て、そもそも、男の子相手に俺はなんでこんなに混乱するんだよ?
気晴らしとばかりに、カーステレオのスイッチを入れた。
find me,
somebody to love
偶然にかかっていたリクエスト曲が終わるところだ。それは、越智が好きだというQUEENの、もう、古くなってしまった名曲だった。
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