第4章  左手の指輪  

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 そこにはバイクに乗った男がいた。  フルフェイスのメットの奥の瞳の色!!  ルシアン!?  東吾はすぐさま、ドアウィンドーを下げた。 すると、ヘルメットのシールドを跳ね上げて、ルシアンが心配そうに尋ねた。 「大丈夫ですか?」 「あ、いや。 ちょっと考え事して……」  どうして、ここに? 「そうですか、体調がすぐれないのかと」  ほっとして表情が明るくなったルシアンの笑顔が、朝日の中で眩しかった。  心配してくれたのか、俺を? 「君は……、ああ、バイトの帰りか?」 「ええ、家はパンセレーノスなんです」 「俺も会社が、あるんだ」 「時々、一緒に走ってるんですよ、僕たち」  気付いて無かったんですか、とルシアンが小首を傾げて訊いた。 「え、……ああ、そうか……なるほど」  東吾がしどろもどろに返すと、ルシアンからクスッと笑みがこぼれた。そして、念を押して訊いてくる。 「本当に大丈夫なんですね?」 「ああ、ごめんよ。もう、行くよ」 「じゃあ、お先に」  ルシアンはシールドをゆっくり下ろし、挨拶代わりに右手を上げてから、車道に戻った。その仕草のスマートさは、スクリーンの中の出来事みたいだ。  バイクは一直線に消えて行った。 排気量の割りに爆音をさせない高性能なバイクだ。コンビニのバイト位じゃ、追い付かない金額だろう。バイトは社会見学という感覚かもしれない。  きっと、持って生まれた星周りが違うんだよな、俺なんかと……。 「かっこいいね、ハンサム君は」  自虐がちに呟いた。その時、チョコレートのお礼を言い忘れた事に気がついた。  あ、いや……、でも、それはどうかな?  意識していると思われたりしたら、気恥ずかしい。でも、お礼を言わない方が意識していると思われはしないだろうか?  あ~、待て待て、そもそも、男の子相手に俺はなんでこんなに混乱するんだよ?  気晴らしとばかりに、カーステレオのスイッチを入れた。    find me, somebody to love  偶然にかかっていたリクエスト曲が終わるところだ。それは、越智が好きだというQUEENの、もう、古くなってしまった名曲だった。 
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