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「お前を、ほっとけないんだそうだ」
「私は、」
「桜井さんを忘れろとは、ブルーノは言わんよ。酷い目に遭ったイタリアにさえ出向くお前の内面に惚れているんだ」
あいつは、あれで包容力の大きい男なんだ、と東吾は言いながら、ピッチでミスった時、必ず聞こえてきた親友の掛け声を思い出していた。
『気にすんな。次、行け、東吾!!』
その野太く迫力ある大声に敵・味方等しくたじろいだものだ。
ノアの事だって、懊悩を内に秘めて常に不安定だった彼を何かと支えてきたブルーノだ。
ガッツがあって心優しい大男。イケメンじゃないが、一昔前ならウェスタン映画のヒーローが似合いそうな頼もしい男っぽい男だ。
熱っぽく親友を語る東吾に、素直に耳を傾けていた越智だが、突然、スルリと首のストールを解いた。
「そういう人なら、尚更、私じゃダメ」
その声が驚くほど苦しそうで、具合でも悪くなったのかと東吾は思った。
「越智?」
だが、越智はストールを外しただけでなく、メンズ仕立ての白いシャツのボタンに手を掛けた。ひとつ、ふたつ……。
「お、おい!?」
露になる胸元に、東吾が慌てて目を逸らした。くすっと、越智の小さな笑いが漏れた。それが、東吾に言葉を取り戻させた。
「ばっか! なにやってんだよ!?」
「大丈夫よ。高瀬さんを誘惑しようなんて思ってないから。だから、……見て頂戴」
その語気に強さと弱さが入り混じっていて、逡巡する事を幾度も繰り返した末の決意が導いた真剣さだと伝わってくる。
東吾がゆっくりと首を戻した時、シャツが床に落ちた。その小さな音を、空調システムの稼動音が吸い込む。
東吾は言葉を失った。
そこに、乳房は無かった。いや、皮膚さえ無い。まるで溶けたビニールが幾重にも重なっているような、ひきつれが在るだけだ。
「胸から下、足首までこうなの」
「……爆破テロで?」
どうにか、言葉を搾り出した東吾に、越智は微笑んだ。
「腎臓とすい臓が弱くてね、皮膚移植が難しいの。しかも、広すぎて、ね」
東吾は以前、越智が太ると皮膚がつれて痛いからと食事の制限をしていると聞いた事があったが、まさか、全身に火傷があるとは思ってもみなかった。
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