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だが、ドアの前で思い出したように立ち止まった。そして、東吾を振り返らずに言った。思いの外、沈んだ声だった。
「祥子は、喜んでくれるタイプよ」
「ばっか、勘違いだって!」
長い足が奏でるヒールの音が小気味いい後姿に、東吾の否定はどんな風に響いている事だろう。東吾は左手に視線を落とした。その薬指には結婚指輪が光っている。はずす理由は、ない。今でも、愛している。
24時09分。
カウンターの向こうが白けて見えた。
コンビニのドアを開けた途端に、彼の姿がないのを知ってしまった東吾は缶コーヒーを買って店を出た。
「馬鹿か、俺は」
後部座席には、結局、袋からも取り出してないグラビア誌が置かれている。それをごみ箱に押し込んでから車に乗った。エンジンを回して、そのモーター音が東吾の吹き溜まった気持ちを吐き出すように響く。
東吾は「暁の天使」を忘れる事にした。
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