~第十一章 魔界~

5/15
前へ
/15ページ
次へ
 カレジはケガと疲労と、魔界の独特の空気にやられて何日も何日も起きられずにいた。 タクルに救われたのは、なんとなく分かった。 しかし、タクルが飛び去った後も、誰かが水を飲ませてくれていたのを夢うつつに感じていた。 やっと動けるようになった時。 目の前に、ひとりの魔族が佇んでいた。 その姿はなんだかぼんやりしていて、淡い緑色に輝く体は透けて向こう側の景色がうっすらと見えた。 「水をくれていたのは、あなたですか?…あなたは、亡くなっているのですか…?」 魔族の男は寂しそうにうなずいた。 「この姿ではヒトに触れることはできませんが、自然には触れることができるので、なんとかあなたに水を。私はティンと申します。800年ほど前まで魔王様にお仕えしていました。」 「は、800年!?ずっと、ここにいるんですか!?」 「…はい…。」 「…どうして?」 「救いたい方がいるのです。…魔王様のご子息、イベル様です。イベル様は、『魔の花』に飲み込まれてしまったのです。幼かったイベル様は幸いにも噛みつかれず、丸呑みされました。つまり、無傷のままなのです。魔の花は魔族を食べます。しかし、魔族だけです。イベル様は、魔族と人間の間に生まれた子。純粋な魔族でないイベル様を消化することはできないのです。私は油断していたために、ここで命を落としました。しかし、イベル様は生きています!魔の花の中で!ずっと、救ってくれる方を待っていたのです…!まさか、人間がやってくるとは思いもよりませんでしたが…。」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加