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その普通ではない物言いにゾクリ…として、璃桜が自分の手を奪い返すと、もう片方もあっさりと解放された。
そう、分かっていた…。
この時、樹の状態が普通ではないなんて璃桜には分かっていたのだ。
それなのに、恐怖に駆られて見ない振りをした。
分かっていたのは、自分だけだったのに……
樹は何も言わずに立ち上がると、璃桜に背を向ける。
「だから、さっきみたいに、何があっても絶対に自分に向けては駄目だよ? 」
部屋を出る間際、振り向かずに言った言葉。
それが、璃桜の聞いた樹の最後の声だった。
その数時間後、この雷雨の中、車で出掛けた樹が事故を起こして帰らぬ人になることなど、この時の璃桜はまだ知らなかった……。
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