魔王

3/6
前へ
/119ページ
次へ
ふと、後ろの破壊の光がやんだ。 あいつが、街をあきらめて、あるいは破壊に飽き果てて、どこかに去ってくれたのかと思った。 よかった。助かった。 思わず顔がほころぶ。その嬉しさを、安堵を、傍の妹にも共有したく、彼女の顔を見る。 彼女の笑顔は、可愛らしかった。 そのとき、目の端で何かが動いた。黒い何かが、速く動いた。 顔を上げたそのとき。 森の出口の大地が、裂けた。 森の出口あたりにいた人々。彼らの体が、一瞬でチリとなった。 木々がなぎ倒され、燃え、爆ぜていく。その力を発揮しているのは、あいつだ。 魔王、だ。 恐怖を感じる前に、体が動いていた。妹の手を引き、元来た道を引き返す。 さっきまで前だった後ろが、悲鳴と死で満たされていくのがわかった。ただ人が、死んでいくのではない。 潰されていくのだ。邪悪な、力そのものに。 元来た道を見たとき、逃げ場はないと悟った。街が、大地が、消し飛んでいた。 でも、逃げなければ。1秒でも長く、生きなければ。 あたりに広がっていた悲鳴が聞こえなくなった。静かだ。 ふと気づくと、あいつが目の前にいた。 手の触れる距離。そこに。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加