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ふと、後ろの破壊の光がやんだ。
あいつが、街をあきらめて、あるいは破壊に飽き果てて、どこかに去ってくれたのかと思った。
よかった。助かった。
思わず顔がほころぶ。その嬉しさを、安堵を、傍の妹にも共有したく、彼女の顔を見る。
彼女の笑顔は、可愛らしかった。
そのとき、目の端で何かが動いた。黒い何かが、速く動いた。
顔を上げたそのとき。
森の出口の大地が、裂けた。
森の出口あたりにいた人々。彼らの体が、一瞬でチリとなった。
木々がなぎ倒され、燃え、爆ぜていく。その力を発揮しているのは、あいつだ。
魔王、だ。
恐怖を感じる前に、体が動いていた。妹の手を引き、元来た道を引き返す。
さっきまで前だった後ろが、悲鳴と死で満たされていくのがわかった。ただ人が、死んでいくのではない。
潰されていくのだ。邪悪な、力そのものに。
元来た道を見たとき、逃げ場はないと悟った。街が、大地が、消し飛んでいた。
でも、逃げなければ。1秒でも長く、生きなければ。
あたりに広がっていた悲鳴が聞こえなくなった。静かだ。
ふと気づくと、あいつが目の前にいた。
手の触れる距離。そこに。
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