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二人は俺たちそっちのけで追いかけっこを始める。先頭は鈴凛。そのあとを追うのが泰史。二人の距離は縮まらず、一定の間を保ったまま物凄い速度で追いかけっこを展開する……。
泰史と鈴凛は、俺たちが目に入っていないようだ。それを見て辰之助が呆れた風に頭をかきながらボソッと口を開く。
「あのバカ……誘ったときあのおっさんを集中的に狙えって言ったのによ……」
コイツ……本気で伊東のこと負かすつもりだったのか。でも泰史は、体育祭のときに出来なかった勝負を付けたかったんだろうな。勝負師の魂とやらが騒いだんだろう。
……っと、少しずつ均衡が崩れ始めてきたようだ。ほんの少しではあるが、徐々に泰史が距離を詰めてきた。
「……もらったぁ!」
「フン、甘いネっ!」
泰史が鈴凛にタッチしようと腕を伸ばした瞬間、鈴凛は急激に方向転換し、軽やかに側転をしつつ真横に逃げた。野性児かお前は……。直線では泰史に分があるが、360度使用していいとなると、鈴凛に分があるようだ。
「……このやろ、面白ぇ!」
再び追いかけっこを再開する二人。変則的な動きで攪乱するように走る鈴凛……さすがの泰史も苦戦気味だ……。
「……オ?」
ここで鈴凛の足が止まった。鈴凛の目の前にはフェンスがある。つまり……行き止まりだ。適当に追いかけてると見せ掛けて、泰史は鈴凛をフェンスに追い込んだのだ。こういうときだけ頭使ってんじゃねーよ……。
「もう逃げられねーぞ?」
「お前何言ってるカ? 横がダメなら、上に逃げればいいだけの話しだヨッ!」
泰史の手が鈴凛に触れる寸前で、あろうことか鈴凛は思い切り飛んでフェンスを蹴ってジャンプし、前宙返りを決めつつ泰史を軽々と飛び越えた。
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