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空が、黒い。
地面も、黒い。
此処は何処だろう。息が苦しい。まるで何処か別の次元にいるような。
でも、誰かが其処に居るような、不思議な感覚。
「ようこそ。我が、この世界の主だ。」
何処と無く声が聞こえた。ドス黒い塊のような声だった。
「そなたの願いを、聞き入れた。」
私の事だろうか。
何を私は願ったんだろう。いや、それ以前に私は誰だろう。手が、冷たい。足も、冷たい。まるで石みたいに体が動かない。
「もう一度、やり直す機会を与えよう。」
指先に刺激が走った。温かい。
掌が、暑い。燃えるように。掌が熱くなっていく。
脚が、光に包まれいく。脚が、消えていく。
「貴方は、誰。」
これが出せる精一杯の声。
何処からもあの黒い声は聞こえない。
光が手を、胸を、覆い尽くす。そして、消えていく。
私は一体、どうなってしまうんだろう。
消えて、灰にすら慣れなくて、誰か大切な人の記憶から忘れ去られてしまうのだろうか。
大切な人って誰だったけ。
あれ?
記憶が途切れていく。視界が光に覆われていく。
薄れゆく意識の中。私の頭に声が響いた。
「我はそなたの運命を預けら_____」
冷たい。
鼻と頬に冷たい何かが落ちる。
濡れた服。どうやら雨が降っているらしい。
目を開けると、真っ暗な路地裏に私はいた。
灰色の空から黒い雫が落ちてくる。
あんなに熱かった掌も、消えていた体もちゃんと元通りだ。
見覚えのない場所。誰もいない。
不意に足音が聞こえた。
歩調を変えず、その足音は近づいてくる。
「...大丈夫か。」
差し伸べられた私と同じくらいの手。
今宵、運命が回り出す。
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