2人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから、もう四年が経とうとしている。
私は開かずの引き戸を修繕した。初任給で直すと宣言したあの引き戸だ。
修繕には予想以上の額が掛かった。引き戸だけでなく、その周りの歪んだ柱や梁、壁なども直す必要があったからだ。初任給じゃ賄えないことを、ばあちゃんは知っていたのだ。
四年ぶりに日の目を見た物置き部屋は埃っぽくて、咳と涙が出た。
カーテンを開け、窓を放つ。四月の柔らかな風が、時間が止まった部屋に光を運ぶ。
その時、ふと懐かしい香りが鼻腔を過ぎった。
飛びつくように、私は匂いの元ーー厚紙でできたお菓子箱を開けた。
ふわっ、と、ばあちゃんの匂いがした。そこには真っ白な薄い和紙で包まれた、茶色いお茶っ葉があった。ばあちゃんお手製の烏龍茶だ。
私はそれを恭しく、ひと摘み急須に入れ、茶碗に注いだ。
「頂きます」
すすっと啜ると、あの香りが鼻に抜けた。
温たくて、優しくて、何だかほっとする味。
また会えた。
溢れ出る涙を服の袖で拭って、私は硬い煎餅を噛み割った。
【おわり】
最初のコメントを投稿しよう!