ばあちゃんの烏龍茶

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ばあちゃんはよく笑う。 ある時は鳥が飛んだだけで笑った。 「何がそんなに面白いの」 私が問うと、ばあちゃんは「思い出し笑いさね」と言って、遠くを見遣った。 「じいさんがな、小洒落た帽子を買ったんじゃ。西洋かぶれの黒い帽子じゃ。 あいつはそれをえらく気に入っていて、事あるごとにあたしに自慢した。イギリス製だの、チャップリンが映画で被ってただのとね。鬱陶しいったらなかったよ。 日光に行った時も、あいつはそれを被って行った。気取って杖を振って、鼻唄まで歌っていたよ。そしたら、ーーきっとカラスも気に食わなかったんだろうねーーボトンと音がした。じいさんが帽子に手を遣ると、べったりと鳥のフンが付いている。上機嫌が一転、あいつは顔をトマトみたいに赤くして、勢い手に持っていた杖を、カラスに向かってぶん投げた。けれどもそいつは獲物に擦りもせず、それどころか一直線に、じいさんの脳天めがけて降ってきた。ゴンっ!鈍い、大きな音だった。周りは何事かと振り返る。阿呆、阿呆とカラスが笑う。そこにはこぶを抱えて涙を堪えるジジイがいる。シュールな画だ。誰もが状況を呑み込めず、呆然と立ちすくむ。そんな中、一人の青年が帽子を拾い上げた。彼は言った。 『この白い帽子は、おじいさんのものですか』 じいさんはまた顔を真っ赤にして、青年から帽子をひったくった。 『これは黒い帽子じゃボケえ!』 あれは隣に居て恥ずかしかったが、笑ったね。全く、滑稽だった」 その話に、私は腹を抱えた。 きっと、沢山の思い出が、ばあちゃんを笑顔にしているのだろう。
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