1章

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僕の名前は深山奏(みやま かなで)大学生である。 ここのところレポートの提出期限が重なって四苦八苦している。 けど、追っ手はそればかりではない。 とあるSNSのゲームのシナリオの一部を手がけているライターの一人なのだ。他にも時間が空けば、ブログに小説もアップしている。 頭痛で目頭が重い。タブレットの液晶とにらめっこして一時間になるが、なかなか行が埋まらないし、意識が散漫になる。 その上、スケジュールはこれでは終わらない。安請け合いしたつもりはないけど、【祭典】の時期が近付くと従姉の同人作家が絵師をやっていて、彼女の仕事の手伝いにもかり出される。 おかげでさっきから、漢字の変換ミスが積み重なっている。英語ならスペルチェックも出来るが、漢字は文節変換しても正しい漢字が候補に上がり選択出来るかどうかは別の問題だ。 ため息が出る。 講義が一マス空いても、移動と雑用で時間が足りなくなる。 手が空かない時に限って、良いフレーズやシチュエーションが降って来ることがあり、後回しにすると既に形を失って雲散霧消してしまってる。 「さっきからため息ばかりだな。」 前屈みに覗き込む男の長い脚が目に入る。ヤツの柑橘系のフレグランスが、ふわりと鼻孔をくすぐり、漂う香りがマッチしていて嫌みじゃないのもムカつくし、相変わらずミテクレだけはいいヤツだ。 上背があり顔もモデルにいそうな甘い造作。脱げば昔、水泳選手でバランスの良い筋肉の付き方をしているアスリート体型。 いつかコヤツを攻めにしたBL小説を書いて、従姉の同人漫画のネタで使って晒してやろうかと狙っているが、なかなか他の既存のネタを進められていない。 「頭がパンクしそう。いろいろ忙しいんだよ、僕に構うな芳村。」 冷たくあしらっても、忠犬よろしく傍らに控えている。 コヤツの出現で、どんな影口を叩かれていると思う?  『奏姫と芳村王子』 そんなありがちなネーミングは願い下げだ。 なのにコヤツはなんの魂胆があるのか、事あるごとに纏わりついて来る。 その夜、従姉の明日香が 原稿の催促のメールを寄越した。 だからプロットの一つとして、『芳村王子攻』はどう?と、ヤツの顔写真を一緒に送ったらその反応たるや…。
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