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「これは契約だ」
と、彼はそういって二つの携帯電話を差し出した。私は携帯電話を見たことが初めてだったので、身を乗り出すようにそれを見つめた。親から聞いた話では遠くにいる人と話ができる夢の機械ということらしい。イメージとしては、糸電話に科学が融合した感じだ。最先端であることは間違いない。
四角い箱に小さな画面、にょきっと突き出たアンテナに、数字と通信するためのボタンがたくさん。サイズは手のひらに収まるくらいでポケットに入れておけば持ち運びには苦労はしないだろう。
「けいやくってなーに?」
彼が私に、片方の携帯電話を渡す。おっかなびっくり受け取った感想は、思ったより軽くて、子供の私には持ってはいけないのでは内心、ビクビクしながら契約について聞く。
「これは俺とお前をずっと繋げてくれる。今からそれを試すから、ちょっと離れよう」
曖昧な答えだったけど、話の腰を折りたくなくて私は頷く。
「うん、どのくらい?」
「部屋を出て、十歩くらい、で、それがブーブー鳴りだしたら、そこのボタンを押せば俺達は繋がる。さぁ、時間が勿体ない、始めよう」
「うん」
彼から受け取った携帯電話を握りしめ、説明されたとうり耳に当てた。すぐにブーブーと音が鳴りだす。恐る恐るボタンを押すと、向こうから声がした。
『もしもし、聞こえる?』
彼の声が耳元に流れ出す、まるで背後からギュッと抱きしめられて、耳元で囁かれてるみたいで少しくすぐったい。
「聞こえてるよ。よく、聞こえる」
別に何かがほしかったわけじゃない、ただ、彼と一緒にいられる時間が永遠に続けばいいと思うことがあった。
彼の父親は無名の科学者で、よくわからない発明をしては周囲に迷惑をかける困った人だ。その父親の息子も、父親からいろんなことを学んでいるようだった。たぶん、この携帯電話も試作品の一つだろう。
『よかった。これでいつでも繋がるね』
「直接、話したほうが楽じゃない? 遠く離れてなくてもさ、話そうと思えば話せるよ」
『それじゃ契約の意味がない。これは君と僕を繋げておくためのものなんだ』
「ずっと一緒にいられるよ。私達はこれから一緒に大人になっていくんだから」
『そうかもしれない、そうしよう。僕もそうしたいって思う』
「そうそう、その気持ちが大切だよ」
『恥ずかしくない? そのセリフ』
「少し、恥ずかしい……かも」
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