0人が本棚に入れています
本棚に追加
「待ってください。こちらの話はまだ終わってませんよ」
聖羅さんの声がした。こっちの話……何だろう。
「この件は事務所に行った時点で仕事です。これが報酬と、困ったときにはこれを」
手渡されたのは金一封とこれは……?
「私のバッジです。これがあれば私の関係者として使えますので、よければ使ってください。あと、私の関連で仕事が欲しければ回します。これで報酬はどうでしょう」
……随分と至れりつくせりだな。しかし私は受け取る訳にはいかない。これは私個人のことだから。雪乃が家に来た時点で、私の所用だ。
「申し訳ありませんが、これは受け取るわけにはいきません。これは正式な契約を踏んだ仕事ではないので。それにこんな至れりつくせりじゃ私の気が収まらない。だからこれは受け取れないのです」
私は金のために動いたのではない。もともとこれは私の責任でもあるし、見届けるのは私の役目だった。ただそれだけのこと。
「でも! 受け取っていただかないと私の気が収まりません。どうか、受け取ってはくれませんか?」
……なかなか強情だな。しかしまぁ受け取るとしたら何がいいだろうか。私にはわからない。
「そうだな、それじゃ個人的な連絡先とその金で寿司でも食いに行くか。一仕事終えたしたまには贅沢したっていいだろ。な、星羅」
表情が明るくなるのが見えた。これが彼女のためであり、雪乃のためでもある。そう判断した。
「もちろん真央も来ますよね? 誘わないと可哀想ですよ」
「当たり前だろ。あと敬語は他人行儀だからな。いつもの口調でいいんだよ、私なんて」
そんな会話をしながら夕暮れの学校を後にする。これでしばらくは面倒事が起こらずに済みそう、そんな予感がした。
最初のコメントを投稿しよう!