第1章

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歩いて五分もすれば家が見えてくる。こんな時間に帰ったら真央がびっくりするだろうな。 玄関の扉を開けるとバタバタと音がする。そして違和感。簡単なことだった。靴が一足多い。ボ ロボロに履き潰されたスニーカー。誰のかはわからない。もちろん私ではないし、真央には新しい靴を買ってあげた。ということはつまり第三者だ。来客の予定はないし、そんな靴を履くような客を私は知らない。 「……何やってんだ、あいつ……」 考えても仕方ない。とにかくリビングへ行こう。 「ただいま……って何やってんだよ?」 そこには様子のおかしい真央がいた。テーブルに向かって座るのはいい。だが明らかにそわそわとしていて落ち着きがない。 「あっ、おかえり。今日は随分早いんだね。どうしたの?」 「ん? あぁ。仕事が早く終わったからな。それより誰か来てるのか?お茶なんか出して」 「えっ? あっ、なんでもないよ! すぐ片付けけるからね」 そう言って湯呑を片付ける。やけに様子がおかしい。 「……玄関の靴。あれは誰のだ? あんなの誰も履かないだろ」 ギクッとした表情を浮かべる。何やら図星だったらしい。 「あっ……実はね……」 それから経緯と事情を話し、奥の部屋から女の子が出てくる。 「えっと……島崎雪乃です。事情は話された通りです。行き場所がなくて困ってるんです」 まるっとそのまま要約された。しかし私にどうしろと言うのだろう。 「お前はそれに釣られて連れてきちまったのか、真央。似た境遇とはいえ知らない人間を養うほど私に余裕はないぞ」 可哀想だが事実だ。それはわかってもらわねばならない。 「でもでも、理央なら何とかならないかな。ちょっと切り詰めれば何とかならないかな。毎日お弁当にするとかそういうことをすればどうにか」 「……まぁなんとかならんわけでもないが……仕方ねぇな」 二人が目を輝かせる。 「ただし、少しの間だけだ。自分の食い扶持は自分で稼いでもらう。当然のことだ。それが出来るなら少しの間おいてやってもいい」 全く、熱意も恐ろしいな。私は結果として負けてしまったが今後どうなるかはわからない。これでまた厄介事を抱えてしまったことになる。めんどくさいことにならないといいが……。
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