第1章

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それから五分くらい経っただろうか。取り乱す彼女を落ち着かせて話を聞く。 「昨日の話です。私の都合で娘が転校することになって。初めてのことじゃないんですよ。でもあの学校がいいって。でもさすがに父親と二人きりでは何かと心配で、強引に連れ出したんですよ。そしたら突然姿を暗ましてしまって……」 なるほど。大弁護士の娘とはいえやはり子供なのだなとしみじみ実感する。それにしてもやけに既視感がある。 「事情はわかりました。お子さんの写真、もしくは身分証明証はありますか?」 端的に応対する。緊張で冗談の欠片も出てこない。この調子だと警察もまだ相手にしてくれていないのだろう。 「はい、これが学生証です。これだけで娘は見つかりますか?」 ……驚いた。両親が蒸発したと彼女は言っていた。それは違う。彼女が蒸発していたのだ。 「島崎雪乃……。まさか親がこんな大物だったとは……正直畏れ入るな」 その言葉に反応する。 「娘を、雪乃を知っているんですか!? 娘はどこに……」 まずい。ヒステリックになる。こればかりは仕事だ。嘘は言えない。 「……娘さんは今、学校へ行っているはずです。転校先の学校へ」 ……面倒なことを引き受けたものだと後悔する。どうしてこうなったんだと自分でも思う。不幸体質にでもなったのか?
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