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『あー、あー、過去の私へ、過去の私へ』
私と同じ声が耳に届く、何度やっても慣れない。慣れたくもないけど。
『長い時間は通話できないため、返答や質問は一切、受け付けないぞ。まずは一言、へこたれるな、泣くな、後ろを振り向いて気づかないふりをするな。お前にはまだ、将来が残っている。男達から巻き上げた金がたんまりためこんでるだろう? 厄介なことになるまえに使ってしまえ、腹の焼き印くらいなら整形外科でなんとかなる。プライベートなことだから守秘義務はある。大丈夫だ』
一呼吸、置いて、
『だから、勉強しろ。これからは学歴社会だ。中卒のゴミを雇ってくれるところなんて何もないぞ。「悲劇のヒロイン」を救ってくれるバカみたいなヒーローなんて存在しないんだ。わかったか!? 将来のことがわかんねーなんて思うのは、未来が見えないなんて言い訳するやつは、先を見ることのできない臆病者だ。下を向いてる奴を助けてくれるほど、この世界は甘くねーだから、頑張れ』
「私のくせに上から目線で余計なこと言わないで!! 偉そうに、説教するな!!」
携帯電話をクッキーの空き缶に放り込んだ。通話が切れて、ただ、ツーツーと音だけが鳴っていた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーー!!!!!!」
物を壊して、机を薙ぎ倒した。写真や服を強引に破いて、捨てる。枕に拳を叩き落としてさらに叫ぶ。
どうすればいいのさ!! どこにもぶつけられない怒りが私を焦がす。いくらお金があっても消えない傷があるのに、わかりきったふうに言いやがって!!
上から目線で偉そうなことを言う。あの声が私の作り出した都合のいい妄想かもしれない、きっとこうなりたいと感じて彼との唯一の繋がりの幻聴かもしれない。壊して、壊れて、泣き叫ぶ。誰も助けてなんてくれないんだ。
そんなことは知っているから、こんなになってしまった自分が許せない。もっと違う自分になれたはずと希望を抱く。
「なに、これ」
荒らし回って出てきたのは──、
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