第1章

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 「・・・私は、先生のことがわかりません。」    窓の外を眺めていた彼女が ふいにそういってこっちを見る。     <第1話 困惑と愛おしさ>         「・・・・隠し事はしてないよ、」    不満そうな顔をした彼女に声をかける。  「・・・そういう問題じゃないんです。」  「んー・・・・でも俺の事は何でも知ってるでしょ?」  新聞を読みながら言う。  彼女のほうに視線を向けると、少しだけ嬉しそうな表情をしていた。  その姿が可愛くて、思わず笑いがこぼれる。それに気付いた彼女が、ムッとした顔で俺を睨んだ。    水野 順平 22歳  茜の恋人。私立高校非常勤講師をやっている。 あまり喋らず、物事にそこまで興味を持たないので茜によく「何考えているかわからない」と怒られる。 考えている事は大体茜のことなので、恥ずかしさにより本人に言えずにいる。    上村 茜 17歳  順平の愛しい彼女。高校生だが順平の勤務している高校とは違う。なので順平が女子生徒にもてはやされているんじゃないか、など常に考えている。 茜自身も大人しく、順平といると安心できるらしい。高校に上がった時に両親を亡くしている  中学校の頃に家庭教師として茜の家に通っていた事もあり、茜は俺のことを先生と呼ぶ。 正直先生と呼ばれることに関しては可愛いと思っているが、高校生と付き合っているという現実に時々胃がキリキリと痛むことがある。    「・・・ 先生は私とデートとかしたくないんですか?」  さっきまで拗ねていたのに、今は少し落ち込んでいる。  コロコロ変わる表情は見ていて飽きないが、悲しそうな表情はいつみても慣れないものだ。  「・・・したいよ。 なかなか予定合わないし、今日せっかく二人とも休みだと思ったら外は大雨だからね」  窓のほうを一瞥する。読んでいた新聞をテーブルに置き、茜が座るソファーへと移動した。隣に座ると、また少し嬉しそうな表情を見せる。  「ごめんね」   俺がそう言うと、茜は首を横に振り 「先生のせいじゃないもの」と笑顔で言った。   「先生 私我が儘ばっかりでごめんなさい」  消え入るような声で言う。頭を撫でてやると、ふふふと笑った。
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