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キィ、と錆び付いた音を立てつつも外の空気が流れてくる。
暗い空。パチパチと点滅する外灯。
情報量が多過ぎて目がチカチカとする。
二階に位置する俺の部屋。
階段を下りて、一階の人達の部屋を通り過ぎる。その時。
キィ、と先程も自分の部屋で聴こえた音と同等のものが左耳を刺激した。
「あら、奇遇だね紗人くん」
「……」
無視しよう。
俺は顔を前に戻して、気持ち速めに歩く。
はやくボロアパートの敷地を越えたかった、そして願わくば着いてこないでほしかった。
「無視は酷いよぉ」
「……」
「むむ。そんな紗人くんはこうしてやる、えいッ」
腕が引っ張られる。
もう無理か。諦めて話したほうが楽そうだし。
立ち止まって振り返る。
「奇遇だね、菱餅。さっきは帰ったんじゃなかったのかな?」
「やっぱり紗人くんと行きたかったんだよね。〝勘が働いちゃったっ〟」
「……くたばれ悪魔女」
そこまで言ってようやく腕を開放してくれた。
チラリと横を見ると菱餅の目が腐っている。どうやら可愛いモードは終わりだな。
少しだけ惜しいのが否めないけれど。いや、少しというか結構残念だ。
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