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「きゅうけーい!」
「…ッ、あっす」
端に座り、面を外し俯くとぽたりと一粒の汗が床に落ちた。
暫くそれを見つめたあと、袴の裾で軽く拭いて手ぬぐいで顔を拭う。
「ふー…」
「あおちゃん」
「…?副将、どうしました?」
「もー副将はやめてって言ってるでしょあおちゃん」
「す、すいません夏月先輩」
『あおちゃん』とは私の愛称である。
私の名前は『葵希』と書いてとそうき読む。
『そうきだと男の子っぽいからあおちゃんね!』
そう入部した時に夏月先輩に言われたのを思いだしホッコリした気分になる。
「…あおちゃん聞いてる?」
「あっ、すいません…」
「もー夏バテ?気をつけてね」
夏月先輩は苦笑しながら言った。
「後で部室で伝えなおすね。あと2分あるから水分摂るように!」
じゃあね、と手を振り自分の面のある場所へ先輩は戻っていった。
後ろ姿を見届けたあと、私は小さく吐息を漏らした。
「さっきの小手打ちさー」
背後から声が聞こえ、ぴくりと身体が反応する。
「…おい?」
この声は道史か。
「聞いてんのか」
少し苛立ちが混じった声と共にゴスッと低い音がした。
その次に堅石くんの唸り声が聞こえたから、きっと打たれたんだろう。
「蒼希ちゃん何笑ってんの」
引き気味にいう隣の女子は佐東絢音。
「っるさいよバカネ。」
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