第1章

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「お願いします!」 目の前の相手を見据えて、隙を狙う。 一度フェイントをかけると面白いほど簡単に引っかかる。 なんて、滑稽なんだろう。 「有難うございました! お願いします!」 ばたばたと近寄ってくる相手を見てギョッとした。 心ここにあらずの状態だっただろうか突然近寄ってこられて驚いてしまった。 「?榛葵?」 「え、あ、すいません」 我が剣道部は男女共に人数が少ないため男女混合。そして稽古を終えたあと、その相手に助言を請う。 「…フェイント掛かりすぎ。あと下半身強化最優先で。剣先と足よく見て。」 助言というより、責め立てるの方が合っているだろう。 「有難うございます! …榛葵は剣道やってて楽しい?」 礼に軽く返事をしたあと、助言ではなく疑問をぶつけられて眉をひそめる。 コイツは助言という言葉の意味を理解しているのだろうか。 「いや、だって楽しそうじゃなかったから」 私が何も答えなかったからか彼が言葉を放った。 「…別に。」 そう言うと主将が「回って!」と合図を出した。 私は小さく「有難うございました」と言いさっさと次の位置へ移った。 堅石くんがなにか言いたげな顔をしていたが、気にしないでおこう。
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