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主将の合図と共に次の相手を見る。
そこには武道全般を得意とし、剣道でも実績を上げている女子、圓谷 榛葵がいた。
「お願いします!」
そう言うと榛葵は小さく「お願いします」と言い俺の目を見据えた。
その鋭い視線に怯んだ。
その瞬間重い一撃が俺の手首を襲った。
「っ?!」
何も理解出来ていない俺を気にも止めず、更なる一撃を喰らわせようと榛葵は構え直した。
(こん…ッの!)
榛葵が小手を打つモーションを取った瞬間、出鼻面を出すべく身を乗り出す。
「面!」
凛とした声と共に、再び鋭い痛みが俺の脳天に響いた。
面越しでもこんなに痛いとは、小さな身体(女にしてはデカい方だろうが)の何処にそんな力が潜んでいるのだろうか。
その後も、俺はフェイントを喰らい反撃しようとすると上手くいなされて結果は散々だった。
(クッソ…)
悔しいけど、楽しい。
もっと、もっともっと強くなりたい。
そう思いながら挨拶をし、全力で榛葵の元へ走り助言を請う。
「榛葵?」
反応が無いから声をかけると榛葵は数秒停止したあとビクリと肩を震わせ挙動不信になりながらも謝罪をした。
ひと呼吸置いたあと、榛葵は目を逸らしながら小さな声で何かをいい始めた。
「…フェイント掛かりすぎ。あと下半身強化最優先で。剣先と足よく見て。」
その声は本当に小さくて、耳を澄まさなければ聞こえなかっただろう。
そんなことよりも、女子とはいえ実績をあげていて自分よりも実力がある人物から助言を頂けるのは嬉しいことだ。
「お願いします」
今度は俺が助言する番だ。
助言をすべく、先ほどの稽古を思い出すと一番最初に思ったことを口に出した。
「榛葵は剣道やってて楽しい?」
「…は?」という顔をされ冷や汗が背中を伝った。
そんな汚物を見るような目で見ないでくれ。
「いや、だって楽しそうじゃなかったから」
苦し紛れの言い訳に聞こえるかもしれないが、実際彼女は淡々と技を避け技を繰り出していて、とても楽しそうとは思えなかった。
暫くの沈黙が流れ、榛葵は「別に」と言った。
言葉を返そうとすると主将の合図と共に彼女は行ってしまった。
『強いのになんで楽しくないんだ』
そう聞きたかったのに。
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