第1章

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「それでは今日からまた新たな一年がスタートします。担任は私、辰野です。よろしく」  それなりに挨拶を交わして、それなりにざわついたところで、担任の辰野が教室へと入ってきた。すらりと背が高く、つり目の若い男教師は、それなりに生徒に人気だ。しかも、女子校となれば教師のほかに男はいない。寄宿舎生活だからなおさらである。彼に一年間目をかけてもらえるとわかった八組一同は、一気に色めきたった。勿論、私、穂刈、江連は除く、だ。席は自由に座ってよかったので、私たち三人は窓際の一番後ろの三つを、陣取っていた。もとより、授業に参加する気など、ほとんどないように。一番後ろの私の席に、前の穂刈は横向きに椅子に座って長い足を通路に投げ出し、江連は私の横でふてぶてしくも頬杖をついて眼鏡の奥からじっと辰野を観察している。印象が悪いったらない。 「まあなんなのはしたない!」。去年担任だった牛神はそういって、私たちの席を強制的に離したっけ。勿論、そのあと自主的にまた固まって座りなおした。放課後にはまた離されたが、次の日には固まっていた。それを幾度となく繰り返すうちに、なんだか楽しくなってきて、牛神がいつまで私たちを注意できるだろうかとお昼ご飯のメイン料理をかけて戦ったのだ。私は「一か月」、穂刈は「わかんない」で、江連は「学年末まで」。結果は江連の勝ちで、彼女は年度末まで私たちの遊びに辛抱強く付き合ってくれたのだった。おかげさまで、今では牛神には一目置いている。 「それじゃあ、見知った顔もいるだろうけれど、自己紹介をしようか。去年僕の持った組は新入生ばかりだったから、初初しかったな。ここはどうかな」  では君から。指名された生徒は辰野と目があったことで少し頬を赤くしながら、ぴょんと勢いよく立ち上がる。椅子が、床とこすれて不快な音を立てた。江連が興味なさそうに、彼女の方を見る。穂刈は、全く興味を持っていないようで、机の上に投げ出した私の右手をしきりに揉んで遊んでいた。
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