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「音瀬です。パンジーの年に入学しました。八組は知らない人ばかりなので、とても楽しみです。よろしくお願いします」
パンジーの年、と言えば、私たちの一年後だ。あの年は、一年でここを出て行った生徒が三人もいた。優秀な年だと、先生たちが噂していたのを聞いた。
「優秀じゃないやつもやっぱいるんだね」
江連がこちらをみずに、ぼそりと呟く。それに穂刈が、くすくすと笑った。一応聞いてはいたのか。感じ悪い、私たち。だからと言って、彼女たちに悪いとも、態度を治そうとも思わないけれど。
結局三十人の内、私たちと同じ、菜の花の年に入学した者はいなかった。前の年に出て行った人数が少なかったから、菜の花の年は人数自体が少ないのである。私たちより早期の入学者が四人、あとはみんな私たちの後だった。
「穂刈です。菜の花の年に入学しました。一番の仲良しは江連と佐倉です。佐倉は私の後ろに今隠れている子です。ずっと一緒でとってもかわいいんです。ほら佐倉立ってごあいさつ!」
穂刈が終わったら私の番だと思い、若干緊張していると、穂刈が代わりに紹介してくれた。これ幸いとばかりに、彼女の長い手に持ち上げられるように立って、クラス全体に会釈をする。
「私たちマイペースに頑張りますのでお気になさらずみなさん。じゃ最後に辰野先生自己紹介してくださいな」
穂刈のやり方に、辰野が何か言いかけたが、彼女はにっこりと笑ってそう畳み掛けた。気になる先生の事を聞けるとあらば、皆私のことなど一気にどうでもよくなる。いや、語弊があった。私のことなどみんな初めからどうでもいいのだが、一人だけ自己紹介しないのが癪に障る事だった。だが、辰野を前にそんなことは些細な問題だ。「え、困ったなあ、聞きたいの?」と皆の視線を受け止める辰野を無視して、唇の端にかすかに笑みを残した穂刈は、再び私の手を取ってむにむにと遊び始めるのであった。
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