第1章

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大人になってやりたいことという作文を見つけた。『大人になったら、大好きな人と一緒に世界一周することです』となんとも馬鹿でかい夢が書かれていた。高校生の頃、部屋中を荒らしまわって出てきたその作文は、私の人生の指針になった。どうせ、身も心もロならもう何も身につけるものはないと思ったからだ。 『悲劇のヒロイン』を演じていれば、いつかきっと彼が迎えに来てくれる。そう信じて待ち続けることに疲れたのかもしれない。外面は笑って、内面は泣いて、やりたいことも見つけられないまま悪い遊びに入り浸る人生ははっきり言ってカッコ悪い。 だから、自分を探すことにした。そのために世界一周。 馬鹿げていると思うだろう。二十歳になって自分探しなんてアホしかやらないと後ろ指をさされ、高校の担任からはバカな真似はやめろと怒鳴られた。高校に通いながらアルバイト、援助交際で貯めに貯めた金はほとんどが準備のために消えていった。 二十歳になって、独り立ちするときがきた。私の人生に感動という二文字はないのかもしれない、最初から最後までグダグダで、方向性も決まらないまま世界を見て回ろうとするアホだけれど、もう何かに縛られる人生は嫌だった。 あの夏、彼から契約だと言われ、一方的に押しつけられた携帯電話、そして唐突にいなくなり、私の心には大きな穴が開いた。彼のことが好きな私は、彼ともう一度、再会する事に縛られ続けている。たぶん、心のどこかで再会することを望んでいるかもしれない。 そんなときだった。新しく買ったスマートフォンに、見知らぬ誰かからメールが送信されてきた。内容は簡単なもので、私の手元にある携帯電話の使用方法と、契約破棄について、まるでどこかで見ていたようなタイミングだ。携帯電話の使用方法は簡単だ。これは強い想いや、伝えたい感情を相手に送るための機械らしい。形式上は携帯電話と似通っているが全くの別物。 それは時間や過去、現在、未来に関係なく通話できる。ただし、それは強い想いでなければ送ることはできない。契約を結ぶことで、他人の想いを受信することもできる。 契約破棄は携帯電話の破壊、それだけ、過去を振り返ってみれば、確かにそうだった。過去の自分を振り返ったり、現在の自分を想像したり、強いかどうかはともかくとして、私は伝えたいと思ったことに間違いはない。 だったら、契約を結んだ彼の想いも受信できるはずなんだ。
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