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私は型の古い携帯電話を耳に当てた。強い気持ち、伝えたい気持ちを電波にのせる。
『聞いているかどうかわからない、あんたに送る。あんたは身勝手だ。なんの説明もなくよくわかんないやつを押し付けて、勝手にいなくなった。別にあんたのせいにするつもりはないけれど、私はもうボロボロだよ』
『………………』
『あんたはそうやって上から目線で私のことを見下ろしてるんだろ? 神様みたいになんでも操れると思ってるんだ』
『………………』
『あの夏、あんたに貰った携帯電話を私はちゃんと持ってる。あんたが持っているかどうかわからないし、興味もない。どうせ、私はあんたにとって思い出なんだろ。だから、私がどうなろうが興味もないし、放置してるんだ』
それでいい。それでいいんだ。
『………………』
『私はあんたのことが好きだった。私の知らないことを教えてくれる。小さな箱庭の中でうずくまることしかできなかった私の手を引いてくれるあんたが、本当に好きだったけれど────』
『──────違う』
彼の声が聞こえた。
『違うんだ。説明はできないけれど、これは必要なことだった』
『そういうことに興味ない、私の告白に答えろよ』
『僕も、僕も君のことが好きだったよ』
『そっか。私、ドロドロに汚れてしまったから嫌いになった?』
『いや、えっと、君は大人になったと思うよ───だから、もっといい人が見つかるよ』
『男運ないからなぁ、私、年上フェチなんだよ』
『大丈夫だよ』
『ん?』
『大丈夫、君にとってこれから運命の人が現れるから、だから、これでおしまいにしよう』
『さようならってやつ?』
『そう。さようなら。あの夏、言えなかったことだけれど。本当はこれも言ってはいけないんだけどね』
『あんたっていったい何者よ』
『────────×××だよ』
『聞こえない』
『────────────』
返答はなかった。本当にさようならだったらしい。彼と繋がった契約は、向こうの携帯電話が破壊されたかもしれないし、もっと別の要因かもしれないけれど、どうでもよかった。
「さようなら、好きだったよ」
と私は携帯電話を地面に落とす、カツンと音を立てて地面から跳ね返るところをメシャッと足で踏み潰した。
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