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「もぅ、頑張れないっ、わたしをもう、解放して……!」
頑張ったのはわたしの勝手で旦那さんのせいではない。
わかっているのに、涙が止まらなかった。
不意に目の前が真っ暗になった。
正確に言うと左目だけ、が。
殴られたことに気づくまで少し時間がかかった。
「俺の邪魔をするな。頑張れないなら頑張らなくていい。誰も頼んでいない。」
冷たい言葉は氷の矢のように心に刺さる。
旦那さんを見上げると、振りかざす拳が一瞬見えた。
再び視界が暗闇になる。
こんな痛み、なんともない。
むしろ、心の痛みがなくなるほどに、殴られたらいいのだ。
そしたら少しラクに、なれる…?
わたしの思考はもはや正常ではないのだ、と、わかっていながら、不思議に気持ちは穏やかだった。
泣き叫ばないわたしに、暗闇は何度も訪れた。
もはや左目、いや、顔の左半分の神経は麻痺しているに近い。
いつのまにか静かになったことに気付いたとき、旦那さんはすでにいなくなっていた。
立ち上がろうと目をあけようとするが、右目しか見えていないことがわかる。
知香、わたし、幸せになりたかった…。
もう、頑張らなくても、いいかなぁ…。
止まらない涙を拭うこともできず、わたしはこの時を境に、離婚を決心していた。
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