曖昧な色香

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あの日から、旦那さんとは完全な家庭内別居状態になった。 もともと顔を合わせることのなかった生活であったが、家のなかで、極力お互い避けあうようになった。 わたしは翌日に眼科へ行き、開かない目を治療してもらった。 腫れ上がったそれを見た医者は、誰に殴られたのか執拗に聞いてきたが、答えなかった。 帰りがけに、看護師さんから処方箋とともにチラシを渡される。 『DVの被害は防げます。シェルターがあなたを保護します』 書かれた文字に、ふと笑いが出る。 DV? 確かDVって、そのあと優しいはずだけど、旦那さんは見ないふりをしている。 そんなこともすでに気にならなかったが。 あんなに関係修復に頑張っていたのが、一瞬で壊れたことに、わたしは驚いていた。 もしかしたら、とても細い糸にしがみついていただけかもしれない。 あっけなく切れたそれは、わたしになんの思いすらも残さなかったのだ。 今となってはそれは、かえってありがたいことだと思う。 36歳。 この歳まで何度も恋愛をしたけれど、わたしはこんなにすっきりと別れたいという意志を持ったことがあっただろうか。 それほどまでに、わたしは晴れた心をしていた。
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