曖昧な色香

7/7
前へ
/17ページ
次へ
でも凄いのは、わたしが彼のことを知る以上に、彼はわたしを見てくれたこと。 わたしの知らないわたしのことも、見てくれたこと。 ある日、わたしは家庭内別居に疲れ、とても元気をなくし、弱気になっていたときのおしゃべりだった。 『あのね、達也さん、わたし今日少し元気がなくて。』 『どうした?』 『ぅぅん、だいじょぶ、ただ…いつものように元気におしゃべりできなさそうなの。』 『人間誰だってそんなのあるよ、きにしないでいいと思う^^無理した夏さんは逆にイヤだなぁ。』 『せっかく楽しい時間なのに、イヤじゃない?』 『全然^^ 人間さ、色んな面があってその人である、わけでしょ?そこが魅力だしさ♪』 『イヤなところも?』 『夏さんの例えば弱いところ、ズルいところ、はさ、イヤなところじゃないんだよ。個性なの。夏さんの個性は、俺がちゃんとわかってるから、必要以上に気を使うことはない^^』 捻くれた考え方をしたら、きっとキリがない。 バーチャルだから。 コトバならどうだって言えるから。 そう思えばいくらでも疑えるし、不信にだってなれるけれど、彼は毎日おしゃべりしてくれて、辛い時は朝方まで付き合ってくれる。 わたしが泣き止むまで、優しい言葉をたくさんくれて、ただ励ますだけじゃなく、あやすだけじゃなく、わたしの悪いクセをも全て包んで軽々と抱っこしてくれる。 そんなはずない、っていう、頑固な心も、時間をかけて溶かしてしまう魔法。 心を完全に彼に抱かれてしまう初体験に戸惑いながら、きっともうこの頃には、わたしは恋をしていたのかもしれない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加