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不意に玄関のカギがガチャリと音を立てた。
まさか、こんな早くに帰ってきた?
わたしは慌てて涙を拭い、玄関に走った。
旦那さんの帰宅は予想外だったが、作っていた夕ご飯を一緒に食べられることに少し嬉しくなった。
だが、彼の言葉にすぐにガッカリとする。
「ただいま。ちょっとモノとりにきた。」
無表情で自室に行く旦那さんの背中が他人に見えた。
付き合っていた頃によく見た笑顔、いつから見ていないだろう。
愛の言葉を最後に交わしたのはいつだろう。
ごはんを一緒に食べたのは……?
わたしはこの時、壊れたのかもしれない。
食卓に並べた、作りたての料理は、気付いたら床に無残に散らばっていた。
もちろん、わたしがすべてお皿ごと床に投げつけたのだけど、どうしてそんなことをしたのか、など、考える余裕もすでになかった。
音を聞きつけてダイニングにやってきた旦那さんは、その状況に驚き、わたしを見つめる。
「一緒に食べたかったの。だけど、食べられないから、意味がないの。」
知らないうちに涙が頬を伝う。
「なにが?なにが意味ないの?」
旦那さんは冷静に問い掛ける。
「作った意味。わたしがすること、ぜんぶ意味がないのだよね?ね、そうなんでしょ?」
壊れたわたしは、もうすべてを旦那さんにぶつけていた。
「どうして、こんなことをする?俺が何をした?」
旦那さんの顔はすでに他人だった。
「何も、してない。何もしていない事が、あなたの悪いところ。」
責めたくない。
だけど止められなかった。
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