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「お久しぶりだね。今日はここで買い物?」
親しげに声をかけられ、刃は顔を上げる。
あかぬけない、というかぱっとしない風体の、ひょろっとした若者が居た。
くたびれたリュックを背負っていて、高校生というには年長な男が、斜め前に立ってにこにこしている。
見慣れない顔だ。
警戒心もあらわに見ていると、がっかり、を体言するように肩を落とされた。
「……きみ、なかなか覚えてくれないね」
なんだ。サトルか。
ごまかしがてら笑う。
「……特徴の無い顔してるからですよ、センセ」
エリックと同様に、同居人の一人だ。
趣味と実益を兼ねて、大学生に化けている。
ということで人間では無い。
彼は、むかし彼女が師事した教師だ。
ここへ溶け込めるようにと、そこらに掃いて捨てるほど居る男子大学生の姿形をしている。
印象に残らない顔は、元々そういう狙いらしい。
が、一人暮らしの演出なのか見本の問題なのか、伸びかけの髪と寝起きのままような格好。
いつも、どうにもくたびれた風体で居る。
だから彼女はたまに、身ぐるみはいで洗濯してやりたくなるのだが。
一応相手は自分の師だ。本人には言えないでいる。
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