あなたの温もりを感じる

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平日の夕方の駅は、人で溢れかえっている。 冬の外気は冷たく、厚手の服を三着にダッフルコートを着込んだ状態でも、寒がりの俺にしてみれば堪ったもんじゃない。 ポケットに突っ込んだ手も、すでにかじかんでいた。 「遅い」 苛立ちを顕に、低く吐き捨てる。 俺――大澤 雪緋(おおさわ ゆきひ)は寒空の下、南口にある花屋の前で、かれこれ一時間以上も人を待っていた。 事の発端は、二時間前のことだ。 珍しく、平日の今日仕事が休みで家でくつろいでいたら、突然電話で駅に来いと、俺より四つ年上の鈴宮 聖(すずみや ひじり)というセフレ関係にある男に強引な呼び出しをくらったのだ。 が、いっこうに現れる気配がない。 突然の呼び出しは今回が初めてではないし、待たされることも初めてじゃない。 だが、人の貴重な休みに呼び出したくせに一時間以上も待たせ、その上苦手な寒さの中立たされたままとなれば、気分は最悪以外になんでもない。 ・
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