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「歯を食いしばれ」
拳をつくり、ドスの利いた声で殺気立つ俺に、道行く人たちが何事かと目を向けているのがわかる。が、無視だ。
ふつふつと湧き上がるこの怒り、このクソ野郎を一発殴らないと気が済まない。
むかつくことに、クソ野郎は怯んだ様子もなくじっと俺を見下ろしていたかと思うと、ふいに目が細められる。
「顔赤くなってる。突然呼び出してさんざん待たせたにも関わらず、ずっと待っててくれたんでしょう。ありがとう、雪緋」
「……っ!」
頬を優しく撫でられ、咄嗟に胸倉から手を振り払った。
はっと我に返った時には遅く、内心舌打ちしながら苦々しい気持ちで、一歩距離をとる。
――やられた。
これ以上、聖を責めることができない。胸倉を振り払った時点で、俺の負けだ。
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