隣人

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 櫛田家の男三人の食事はとにかく早い。原則として食事をしながらアルコールは飲まない。逆にアルコールを飲む時はほとんど食べない。  ちゃぶ台の上には、焼き鯖、トマトとレタスのサラダ、サトイモと鶏肉の煮物、きんぴらごぼう、ほうれん草の白和え、冷奴、沢庵が所狭しと並んでいた。 「真知子さんの料理が食いたいな」  浩人は少し硬いサトイモに箸を突き刺した。 「私は泰人兄ちゃんのご飯好き」  杏は皿にとったトマトにマヨネーズをたっぷりとかけた。  泰人は自分で作ったキンピラを口に運んだ。 「しょっぱいぞ」  浩人が警告する。  泰人は少し涙目になった。  三国は他の三人にまったくかまわず慌しく箸を動かしていた。煮物に箸を立て、サトイモを噛まずに丸呑みする。 「父さん、お茶、お茶」  三国の顔が赤黒く膨れ上がっているのに気がついた浩人が茶碗を渡す。三国は震える手で受け取りお茶でサトイモを流し込む。しばらく目を白黒させながら、やがて急に落ち着いた顔に戻った。 「あー、死ぬかと思った」  目には、うっすらと涙が浮かんでいた。 「父さん、もういい年なんだからゆっくり噛んで食いなよ」  浩人は呆れ顔だった。 「あんだと? メシぐらい好きなように食わせろ」 「別にいいけどさ。多分、そのうち餅、喉に詰まらせて死ぬよ」 「死なねえよ。ごっそさん。泰人、ちょっと花源さんに行って来ら」 「花源さんに何の用だよ」  浩人は慎重にサトイモを噛んでいた。 「あれだよ、あれ。なんだ、あの、あれだ、あれ」 「ああ、この前の祭壇用の」  泰人が納得したようにうなずいた。 「ちょっと待て、泰人、おまえ、それでなんでわかるんだ」 「わかるよ」 「わかんねえのかよ。あれだ、泰人の言う祭壇用のあれだよ、あれ、なあ」 「祭壇用の菊、当日になってご遺族様からもうちょっと増やしてって言われたんだけど花源さんになんとか工面してもらってね。そのお礼って話だよね」 「泰人その通り。わかってんな。じゃ、ちょっと行ってくっからな」  三国は上機嫌だった。 「花源の親父と飲むんだろ」  浩人は焼き過ぎてぱさぱさになった鯖にかぶりついた。 「バカ、飲むのも仕事のうちだろうが」 「まあね、昔と違って今ならその気持ちわかるよ、俺も」 「知った風なクチきくんじゃないよ。じゃ、行ってくる」
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