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玄関の向こうに人影が見えた。
「と思ったら来客だよ」
「こんばんはー」
若い女性が顔を覗かせた。
「なんだよ、里佳ちゃんかよ。上がんな、上がんな」
三国が相好を崩した。
「お邪魔しまーす」
櫛田葬儀店の大家でもある田村里佳が嬉しそうに入ってきた。
「里佳、おまえ、絶対メシ時狙ってきてるだろ」
浩人がぼやく。
「え、なんのこと? お食事中なの? 美味しそー」
「食べてく?」
泰人は明らかに歓迎していた。
「おい、甘やかすなよ」
泰人を睨む浩人。
「じゃ、お言葉に甘えて」
いそいそと食卓に近づく里佳。
「あー、いいよいいよ、里佳ちゃんはウチの子みたいなもんだから」
上機嫌の三国。
「白和え、ヘルシーな味付けでとっても美味しい!」
杏と浩人の間に座った里佳は早速食べ始めていた。
「ものは言いようだな」
浩人は里佳の口ぶりに感心していた。
「この煮物もさっぱりした味付けで美味しいね、杏ちゃん」
「うん」
杏が楽しげにうなずく。
「見てみて、杏ちゃん、沢庵がつながってる!」
「あはは」
「なんだよ、杏まで手なずけられてんのかよ」
「いいんだよ、浩人のいない間も里佳ちゃん飯食いに来てくれてたんだぞ」
三国はいつの間にか缶ビールとグラスを持ち出していた。
「里佳ちゃん、飲むか」
「ありがとう、おじさん」
「おまえには遠慮ってものが無いのか」
「あー、おいしー。ここで飲むビール最高」
食卓は一気に明るい空気になっていた。
「ヒークンも飲もうよ」
「やめろよ、オマエだけだぞ、その呼び方すんの」
「里佳ね、ヒークンに相談あるの。おじさん、ちょっとヒークン借りていいですか」
「ああ、いいよいいよ。じゃ、ヒークン、里佳ちゃんと楽しくな」
「おい、親父、てめえまで、なに言ってんだよ」
「親に向かってその口のきき方はなんだ、ああん?」
「里佳ちゃん、アニキなんかよりボクが一緒に」
「ヤックンは今度ね。杏ちゃんバイバーイ」
「うっせえな、わかったよ」
浩人は重い腰を上げた。
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