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事務所のパソコンの前には浩人が座っていた。
「さすが」
プリンターから出てきたカラーのチラシを手に取った泰人は感心しきりだった。
「そこらにあった他のとこのチラシ参考にしただけだから」
「プロの仕事だよ」
「プロったってバイトだけどな」
褒められた浩人が照れたように頭をかいた。
「でも、五、六年ぐらい働いてたんでしょ、デザイン事務所」
「学生の頃からだからなんだかんだで八年か」
札幌駅の北側にはIT企業が密集している。そこで名の通ったデザイン会社で働いていた。
「なんでそのまま就職しなかったのかなあ。もったいない」
「ライブハウスのほうもやってたから時間縛られるのもあれでな」
「ライブハウスって仲間と一緒にやってたって奴でしょ。でも、結局それもやめてこっちに帰ってきたじゃない」
何も言い返さなかった。札幌から帰ってきた事情はまだ話せそうにない。
「ごめん」
察した泰人が先に謝った。
「いや、いい。悪い、コーヒー淹れてくる」
「あ、ドリップするの? いいね。じゃ、ボクのも。兄さんのコーヒー、コンビニのより美味いんだよね」
「当ったり前だろうが」
とびきりの笑顔を返した。ライブハウスで淹れてたからとは言わなかった
「おいおい、喫茶店じゃねんだよ。葬儀屋でお香じゃなくてコーヒーのいい匂いさせてどうすんだ、おい」
外から帰ってきた三国は鼻をひくつかせていた。
「じゃ、父さんの分、無しね」
「そういうこっちゃないぞ。俺の分はミルクも入れてくれ」
「なんだよ、飲むのかよ」
「決まってっだろうが」
やかんから一気に注がれたお湯でコーヒー豆から泡が立つ。充分に蒸らしてから慎重にお湯を注いでいく。
熱い熱いと言いながら三国は一気に飲み干した。
「なんかさあ、せっかくなんだから、もう少し味わって飲めよ」
「うるせえ。そんなことより、なあ浩人、おまえ、写真、そのあれだ、パソコンでちゃちゃっと修正したりとか、なんだ、あれ、スライドとかなんとか、そんなの作れるんだろうが」
「一応そういうのもやってたけどね」
「ちょうどよかった。昨日おまえと一緒にお邪魔した村田さんの奥さんがな、この前見つけたアルバムあるだろ? あれでそういうのあれだってさ」
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