向こう三軒両隣

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「あれとかそれとかわかんねえよ」 「あれも頼むとけっこうかかんだ。おまえがやってくれると非常に助かる」 「なんだよ、ただ働きかよ。しょうがねえなあ」 「お、やってくれるか」 「オレの出来る範囲でってことなら」 「じゃおまえ、早速、村田さんのお宅に行って写真預かってこい」 「え、いきなり。それも、なんで俺ひとり」 「写真もらってくるだけだからいいだろが。俺ぁ、市民病院に行かねえとな」 「しょうがねえな。わかったよ。じゃ、車は?」 「はあ? なに言ってんだ、おまえ。車は俺が使うんだよ」 「また見舞いに行くのかよ」 「違うよ、バカ。ご遺体に決まってだろうが。病院からな、さっき電話あったよ。泰人、おまえも行くぞ」 「わかった」  泰人は飲みかけのコーヒーを一気に飲み干した。 「ああなるほど、今は携帯に直接だからこっちにはかかって来ないんだ」  浩人はひとりで納得していた。 「おうよ」 「じゃ、村田さんのとこにはどうやって?」 「おまえは自転車だ自転車」 「しょうがねえな。わかったよ」  浩人もコーヒーを空けた。  実家には自転車が三台ある。一台は主に三国とたまに泰人が使っている仕事用。真知子と杏がそれぞれ一台。帰ってきて二週間、浩人は自転車には乗っていなかった。  車で出て行った二人を見送ってから自転車を押し出した。三国から渡された革の大きな鞄を前かごに載せる。低過ぎるサドルの高さを調節しようにも錆びついてどうにもならない。とりあえず諦めてそのまままたがった。  バス通りではなく、一本裏に入った道を選んでいく。漕ぐ度にきいきいと軋んだ。三国も泰人も全く手入れはしていないようだった。帰ったら絶対に潤滑剤をスプレーしようなどと考えながら浩人はゆっくりとペダルを踏んだ。
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