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窓の外はただ白一色だった。
雪は上からではなく下から後ろへと斜めに真っ直ぐ線を描くように飛んでいく。大きな結晶の形を保ったまま窓に当たり跳ね返る。白い虚空へ消えていく。
窓の向こうの奥行きが分からない。動き続ける雪のせいで途轍もなく深く、それでいてすぐそばに壁があってもおかしくないようにも見える。
止まらない動きを追うのは眩暈に似ている。身体は止まっているはずなのに、自分が飛んでいるような気がしてくる。
この世のものとは思えなかった。
「これが、あのヒトの見せたかった雪……」
村田麻子は冷たい窓に手を押し付けた。窓の露が指を伝わった。
反対の手は午前中に荼毘に附された夫、村田和郎の骨箱をしっかりと抱えていた。
「もうすぐ鷲ノ巣駅を通過します」
時計を見ていた田村里佳がそう告げた。
「撮りますよ」
櫛田浩人はカメラを構えていた。
麻子はレンズに顔を向けた。
「通過します」
里佳の言葉を合図に浩人はシャッターを切った。
「見せて見せて」
里佳に急かされ、浩人は撮ったばかりのカメラの画面を二人に向ける。
「すごい、ほとんど同じ」
里佳の目が輝いていた。
麻子は深くお辞儀をした。
窓の外はただ白一色だった。
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