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軒先に掲げられている木の看板はどう贔屓目に見ても薄汚れていた。浩人が生まれるよりも前、浩人の祖父である櫛田義一郎が葬儀店を始めた時から掲げられている看板だ。
「看板、そろそろ何とかしないの」
看板を見上げた浩人は、髭を綺麗に剃ったばかりの顎を気にするように触っていた。
「バカ、おまえ、これは親父の大恩人が寄贈してくれた一点ものだぞ」
浩人の父親、三国の短く刈った髪の毛はすっかり白くなっている。
「その話は何度も聞いたよ。長仁寺の建仁和尚の話だろ。それにしたってさ、今どき、こんなボロい看板は無いんじゃないの。そもそも読めねえし」
櫛田葬儀店を始めた義一郎は十年前に、看板の文字を書いた建仁和尚も三年前に鬼籍に入っていた。
「うるせえ。ごちゃごちゃ言ってねえでとっとと中に入れ」
立て付けの悪い扉にイライラしている三国の機嫌は今にも爆発しそうだった。
「あ、扉、直そうか」
「うるせえ」
強引に扉を開け大股で中に入いる。
「はいはい」
浩人はおとなしく後に続いた。
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