8人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、泰人、もうすぐ杏が帰って来たら……、」
「ただいまー」
タイミングを合わせたかのように制服姿の杏が帰ってきた。
「おお、杏。早かったな」
三国が目を細めた。
「ごめん遅くなって。すぐ出る?」
「お、そうか、時間か。だな。じゃ、すぐ出るか」
三国が腰を上げた。
「わかった。荷物だけ置いてくね。浩人兄ちゃん、ここ置いとくから」
革の学生鞄と大きなスポーツバッグがちゃぶ台の横にドカッと置かれた。
「おいおい、もうちょっと丁寧に扱えよ」
「うん、わかった」
「わかったって、全然わかってねえじゃん」
「杏、そんな奴ほっといて行くぞ」
革靴ではなく運動靴を履いた三国は泰人から車の鍵を受け取った。
「泰人、札幌のな」
「南三条セレモニーホールでしょ。今朝メールくれた宇野さんに返しとくよ」
「悪いな。よし、杏、行くぞ」
「うん」
「杏、寒いぞ。手袋しなくていいのかよ」
浩人が赤くなった杏の鼻の頭を指差した。
「大丈夫」
「おめえはイチイチうるせえな。クルマだからいいんだよ」
舌打ちした三国の横で、杏がペロッと舌を出しウインクになってないウインクをしてみせた。
最初のコメントを投稿しよう!