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洋ちゃんのために、心を込めてココアを作る。
ミルクパンの中をマドラーでグルグルかき混ぜてペースト状になった純ココアと砂糖の塊。
そこへたっぷりの牛乳を入れて、グルグルとまたかき混ぜる。
「真剣だね。」
笑われてるみたいな気がして、顔を上げた。
優しい目をして、お皿を拭きながらこっちを見てくるハンサム王子様だ。
「だって、洋ちゃんに飲んでもらうんだから真剣だよ。来週まで会えないんだから、一週間分の気持ちを込めてるんだもん。」
「あぁ、もぅ、そんな可愛いこと言ったら帰りたくなくなるでしょぅ。男心をくすぐらないでよ。」
オトメン心に触れたらしい。
シメシメ。
私ばかりが翻弄されてるなんて悔しいから。
「どこかに惚れ薬があったらなぁ。この中に入れて洋ちゃんの頭の中が私でいっぱいになるように惚れ薬、入れたいなぁ。」
「ぷっ。美代ちゃんの頭の中も俺でいっぱいになってよ。」
もう、なってます。
言わないけど、伝わってると思う。
お互いに顔を見合わせて笑ったんだから。
どんぶりではなく、ラブリーなマグカップにココアを注いで、洋ちゃんが帰ってしまうまでの束の間のひと時を過ごす。
この時間がくるのは、淋しくて切ない。
来週も会えるのに、淋しくて切ない。
洋ちゃんは、私の気持ちにきっと気が付いてる。
だから、いつもは強気な態度をとってしまう私をうんと甘やかせようとしてくれる。
後ろから、すっぽりと私を覆うように抱き締めて。
私がもたれかかっても、腕を触っても、スリスリしても、ただ楽しそうに目を細めて私にされたい放題。
猫舌ではないけれども、なかなかマグカップに手を伸ばさないのは、飲んでしまったら洋ちゃんが帰ってしまうから。
洋ちゃんが足りない。
満たされてるのに、もっと一緒にいたいと思う。
もっと、もっとと思ってしまう。
我慢ばかりだった恋愛とは違って、今が本当に楽しいのに。
どんどん我儘になっていく自分が怖い。
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