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「彼氏が作ってくれたマドレーヌだから佳奈にも郡司にもあげない。私が食べる。それだけだよ。それに、今度の彼氏は本当に問題なんてない。前にも言ったでしょう。」
うどんを啜る郡司がまたバカにしたような顔をする。
「お菓子作りが趣味ねぇ。」
・・・違う。
思考と嗜好がちょっと乙女な可愛いオトメンなだけ。
堂々と宣言してやればいいのに、なぜかできない。
洋ちゃんのことをこれ以上バカにされたくない。
イラッとしてくる気持ちをおさめるように、個包装された袋のモールを外して中から貝殻のような独特の形をしたマドレーヌを取りだした。
洋ちゃん、ありがとう。
ちゃんと思いだしてるよ。
一口、齧れば口の中に甘さとバターの香りが広がる。
それから、私の頭の中には洋ちゃんが笑ってる顔も。
「いいじゃない。お料理してくれる彼氏なんて。私は羨ましいけどなー。郡司も彼女に料理の一つや二つしてあげれば喜ぶんじゃないの?」
「・・・彼女、ねぇ。今は、彼女はいない。」
私の過去の恋愛をさんざんバカにして、いや、友達としてヤメテオケと忠告していてくれた郡司は女の敵だ。
来る者拒まず、去るもの追わず。
好きな人がいるけど、それでもいいなら付き合ってみる?
こんな最低なセリフを吐くらしい。
それでもいいからと付き合って、体を繋げても心を繋げられないことに気が付いた彼女達から別れを切り出される。
そして、追わない。
お互いに合意の上で付き合って別れてるんだから問題ないだろ。
最初から、好きな女がいるって言ってる時点で俺は誠実だし。
こんな男なのだ。
同僚として仕事をする分には、かまわない。
同期として、飲みにいく分にも、かまわない。
郡司と佳奈の会話は続いている。
「彼女はいないって何?まさか、セフレとか?」
「・・・いや、言い直す。彼女もいない。次にチャンスができたらそのときこそモノにしようと思ってるだけ。好きな女を。」
「あれ?好きな人がいるっていうのは、本当だったんだ?意外。そういう口実だったわけでもなく?」
甘くて美味しい洋ちゃんのマドレーヌを食べ終わって、お茶を啜った。
よし、午後からも頑張るぞ。
今頃、洋ちゃんも汗水たらして頑張ってるに違いない。
洋ちゃんは港で働く海の男だ。
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